医薬品に関する制限をまとめた法律である薬機法(薬事法)は、様々な広告表現について制限し、罰則規定を設けています。しかし、我々を守ってくれる法律である反面、ちょっとしたSNSやブログへの書き込みによって、悪意なく法律に違反してしまう可能性があることを知っておきましょう。
今回は薬機法の広告制限について、詳しく解説します。
そもそも薬機法(薬事法)とはどのような法律なのでしょうか。我々が暮らしていく上で欠かせない医薬品など、人の体に作用して影響をおよぼす物を対象に、品質・有効性・安全性を確保するといった目的の元に制定された法律です。
正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」と言い、略称として薬機法(やっきほう)と呼ばれています。その歴史は古く、明治時代に制定された薬に関する法律を、戦時中である昭和18年に薬事法(やくじほう)という名称に変えてまとめました。
薬事法という名前は2014年の改正のタイミングで薬機法に変わった、という経緯を持つため、この二つの言葉はどちらも同じ法律を示しています。薬機法が制限する対象は、正式名称からも分かる通り、医薬品だけではありません。
例えば、歯周病予防の効果が期待できる成分が配合された歯磨き粉などの医薬部外品、化粧品、メスやレントゲンなどの医療機器、再生医療等製品なども含まれます。どれも、もし安全性が保障されていないとなると、人の生命に関わりかねないものなので、薬機法で厳しく制限されているのです。
薬機法について注意をしなければならないのは、薬品や化粧品、医療機器などを作るメーカーや専門家だけ、と考えてしまう人もいるかもしれません。確かに、法律によって我々は守られていて、安心・安全な医薬品類を手にできるようになっています。
ただし、薬機法が制限対象としているのは製造側だけにとどまらず、対象の一つに「広告の取扱い」が含まれていることに注意しましょう。これは実際はそういった効能が得られるか分からないにも関わらず、「このクリームを塗ると肌荒れがなおります!」と表現されている商品を誰かが購入してしまわないようにするために制定されています。
具体的には、薬機法の第六十六条から六十八条において、「あらゆる人は、医薬品等について、虚偽や過大な表現を用いて効能を示したり、医療関係者が性能を保証しているかのように表現したり、特定の疾病を治すと表現することはできない」と定められています。
この法律のポイントの一つは、「あらゆる人」と定義されている点で、医薬品等を製造する企業・広告を制作する企業だけでなく個人も対象に含まれます。更に、広告は新聞やチラシに掲載されているようなものだけにとどまらず、自分のブログやSNSアカウントで、医薬品類を紹介して広告料を得るアフィリエイターやインフルエンサーなども対象となるのです。
つまり、「ちょっとこの商品を紹介して貰えませんか?」という依頼を受けて、良かれと思って過剰に効能や品質について書いてしまうと、法律違反になってしまう可能性があります。
知らないうちに法律違反をしないため、具体的に、どのような表現が禁止されているのか知っておくことは大切です。第一に「効果・効能」「安全性」を保障するような内容や、性能を誇大するような内容は禁止されています。
例えば「ソバカスが消える」「腎臓の疾患に効果がある」「絶対に痩せる」などの文言が該当します。第二に、最高級品であるという表現は禁止されているので、「最高のうるおい」といった文章は避けましょう。更に第三に、個人の体験談・個人の感想であるといった免責事項を添えていても、薬機法の対象から外れることはできません。
その他、「がん」「肉腫」「白血病」に対する広告は更に制限されています。「これを飲めばがんがなおる」という表現が問題なのはもちろんのこと、「これを飲んでおけばがんの発症予防になります」といった表現も違反です。
また、未承認の医薬品を広告することもできません。こういったものは、特に海外から個人輸入した薬品などで多く見られるケースですので、安易に宣伝しない・購入しないように気を付けておくと安心です。
薬機法における広告に関する法律違反があった場合、罰則の規定があり、これも改正によって厳罰化が進められている状況です。厚生労働省は、広告を見て「これを飲めば病気が予防できる」「家族の病気をなおしてあげたい」と信じてしまった人たちへの健康被害や、金銭的な被害を問題視しているため、懲役などの罰則や、行政指導などが行われます。
また、医薬品等に関する虚偽広告については、「対象商品の売上額のうち、4.5%」を課徴金制度によって支払わなければなりません。不適切な広告で売上を得ているのだから、そこから一定の金額を納めさせる、という考え方に基づいています。
もしも、インターネットでWEBサイト等を見ていて、「この表現は、薬機法に違反しているのでは?」と感じた時は、その販売サイトの所在地のある地方自治体へ通報しましょう。相手の住所が分からない、または海外の企業であった場合は、薬機法を管轄している厚生労働省に通報しましょう。
繰り返しになりますが、自分が住む自治体ではなく「販売者が明記している住所のある自治体」ですので、間違えないようにしてください。
また、薬機法に違反するサイトの運営者の中には、法律違反であることは重々承知で活動しており、そういった住所を非公開にしてやり過ごそうとしていることもあるでしょう。また通報されたことを察知して、掲載している内容・データの改ざんなどを試みるかもしれません。
法律上気になるサイトを見かけた時は、ページのスクリーンショットなどを残しておくと証拠が保全されるのでおすすめです。
薬機法(薬事法)は病気や症状に対して困っている人を、より苦しめる可能性がある医薬品等を制限し、我々の心身を守ってくれる大切な法律であると言えます。インターネットが普及した今、虚偽の宣伝や誇大広告などは毎日生み出されてしまっています。
藁にもすがる思いで治療薬などを求めている人たちから、お金などを搾取している状況を食い止めるため、より多くの人が薬機法について理解し、法を守る意識を持つことが大切です。