薬事法?薬機法?現在はどちらが正しいの?

ニュースなどを通じて「薬事法」や「薬機法」というワードを耳にしたことがある人も多いかもしれません。しかし、このような医薬品に関する法律の誕生が、江戸時代にあったと知っている人は珍しいのではないでしょうか。

正式名称「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」と呼ばれるこの法律が、どのような変化を経て現在に至ったのかを、詳しく解説したいと思います。

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薬機法(薬事法)は長い歴史を持つ法律

日本において医薬品の品質に対する法律ができたのは、実は今よりも三百年前、江戸時代にさかのぼります。倹約家として有名な第八代将軍・徳川吉宗の時代に、江戸の町に薬品の検査場が作られ、「検査に合格した薬品のみ流通を許可する」システムが生み出されました。

最初は江戸のみで行われていましたが、最終的には西日本の方にも複数の検査場が作られ、また、薬を販売する問屋に対しても「代表者が講習を受けなければならない」という規制もかけられました。こうして不確かな薬品が市場に出回ることを防ごうとしたわけです。

徳川幕府によるこの制度は、約15年経過した後に廃止されてしまいますが、これが行政による薬品に関する規制の始まりだったと言えるでしょう。薬に関する法律が新たに作られたのは1870年のこと。世の中が「文明開化」に湧き上がっている時代です。

西洋医学を重んじた政府によって、日本で古くから伝わってきた漢方薬や薬売りといったものに対して大幅な規制がかけられました。そこから20年の間に、現在でいうところの薬局や薬剤師に対する規制、毒薬や劇薬という概念、医薬分業という考え方などが次々と生まれていきます。

そして1889年、「薬事法」の親ともいえる「薬品営業並薬品取扱規制(通称:薬律)」が制定されました。これにより、規定に合格しない薬品の製造はもちろん、陳列や販売なども禁止されるようになります。この薬律は数度の改正を経て、また後に生まれた薬事法がある中でもそのまま施行され続け、廃止となったは1975年のことです。

戦時中に生まれ、戦後に変化した薬事法

薬事法という名前の法律が生まれたのは、戦時中である1943年のことです。そこに至るまでの間に、「医薬品は、人の体に悪い影響を与えず、なおかつ薬の効果が証明できるものでなければならない。片方の条件だけを満たしていても、それは薬と言ってはいけないはずだ」という有効無害主義が広まり、更に品質の確保や誇大広告の規制など、現在の薬機法と似た考え方が用いられるようになっていました。

そして、戦争による物資統制の影響で、薬品も製造の時点から厳しく規制がかかるようになります。そういった統制を法律で示すために公布されたのが「薬事法」です。この薬事法は後の薬事法と区別するために「1943年薬事法」とも呼ばれ、製造許可・違法医薬品の取り締まり・品質チェックなどが行われるようになりました。

終戦を迎えた日本は、新しい日本国憲法を制定することになり、古く時代に適していない法律・戦時中のみに適用されるべき法律・復興のために必要な法律、と様々な観点で法の見直しが行われました。薬事法もそのうちの一つで、当時は戦争による混乱と極度の物資不足によって、品質の悪い医薬品が大量に出回っていたため、それらを適切な状態にするために1948年に改定されます。

内容は、政府による許可制から都道府県知事への登録制に変え、これにより全て政府のコントロール下にあった医薬品を解放したことになります。

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次のターニングポイントは国民皆保険

病気や怪我で高額な医療費が発生した時の負担を軽減させるために、全ての国民が公的医療保険に加入しなければならない、という考え方を「国民皆保険」と言います。日本でも1961年に制定されましたが、その施行前に健康保険制度を作るため、1960年に薬事法が改定されました。

というのも、国民の全員が等しく必要な医療を受けられるようになると、多くの人が病院を受診し、病院や薬局で薬剤師によって薬を調剤して貰うことになります。この流れにおいて適正に医薬品を扱うため、医薬品の販売業者の細分化や見直しがされた他、置き薬と呼ばれる販売形態も対象に含まれるようになり、一方で薬剤師に関する法律を薬事法から分離しています。

平成以降の変化、そして薬機法に改められるまで

1960年以降、薬事法は度々改正されていますが、平成に入ると更に変化が多くなります。例えば、栄養ドリンクなどの医薬部外品が薬局以外の店舗でも取り扱えるようになったり、メスなどの医療機器を人への影響度に応じたクラスに分類して安全対策を講じたり、といったものです。

特にニュースなどでも大きく取り上げられたのは2006年の改正で、この時、一部の医薬品が薬剤師不在でも取り扱えるように規制緩和が行われました。現在、コンビニエンスストアなどでも、一般的な風邪薬などが販売され購入できるのは、この法改正のおかげです。

薬事法は時代の変化に応じる必要性が高く、改正の頻度も高い法律です。なぜならば、例えば医療機器のIT化や、コンピューターを利用した病気の診断プログラムなど、技術の発展が医薬品類に大きな影響を与えるためです。

平成26年にはそういったITに関連した医薬品・医療機器に対する制限を増やしつつ、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(通称:薬機法)」と言う名前に変えたのです。

そして今も改正が続く薬機法

そして現在のような形で施行されている薬機法は、常に時代の変化と共にあり、そして医薬品を使用する人々を守るために改正が行われ続けています。例えば、本来はそのような効能が認められていないにも関わらず、その医薬品や化粧品などを使用することで良い効果が得られると広告することは、「誇大広告」という条文で禁止されています(第六十六から六十八が該当)。

この項目は対象範囲が拡大しているだけでなく、インターネットの普及から、誇大広告が色んな人に拡散しやすくなったため、2021年からは課徴金制度が導入されました。この改正により、薬機法違反となった場合、違反対象商品の売上のうち4.5%に値する金額を支払わなければならないのです。

それでも、悪質な業者などは様々な形で法の網の目を潜り抜けようとするはずです。それを防ぐために薬機法はこれからもずっと、時代や技術に応じた改正が続くことでしょう。

長い歴史を持つ薬機法は、我々を守ってくれる強い味方

三百年もの間、様々な形で施行されてきた薬機法は、基本的に我々の心身を守るために存在しています。服用することで我々の身に危険を及ぼしたり、あるいは効能もないのに高い金額を支払ったりするような被害を食い止めるのが、薬機法という法律なのです。

もしも医薬品や化粧品、医療機器などを利用する際に不信に思うことがあれば「薬機法に違反していないか」と考え、調べてみるとよいでしょう。